フィールドトリップが止まらない

マウントプロスペクトの巨大ガレージセールの行方



こんにちは、GOです。

その日は事前に入手した漠然とした情報だけが頼りだった。その年の来る4月30日に北米シカゴ郊外にあるMt. Prospectマウントプロスペクトという地域で650件以上が参加するという巨大ガレージセールがあるということだった(2010年前後数年の頃の情報です)。

米国での初のガレージセール巡りということで、どういう仕組みなのかも当時は想像に任せるまま、行き当たりばったりで臨むことになった。アメリカでのガレージセール探訪デビューから本来の一般的なガレージセールとは少し趣の違うイベントに出向いてしまったことは後で知ることになった。



その季節は引越し盛りのシーズンであるが、ご多分に漏れずその前日に引越しをすることになってしまっていた。まだ車を持っていなかったのでレンタカーを使おうと思っていたが、その日はみんなが引越しをするからレンタカーをするならば早めに予約を抑えないと借りるのが難しくなると新しいプロパティーマネージャーから聞いていた。まだ米国滞在歴が浅く荷物もさほど多くなかったこともあり、翌日にガレージセールに向かうことも見越してU-haulやBudgetで借りることができる引越し用のトラックではなく、いつも借りているレンタカーのハーツHarzでミニバンを引越当日の朝から借りることにした。

引越し自体は、懸念していた腰痛もさほど悪さをせず、スムースに終えることができた。その後、一旦前の住処に戻り、保証金を無駄にとられないために室内を磨きあげることにした。翌日は、昼に内覧検査があったため、時間に合わせ前の住処に立ち寄った。確認に来た体が大きくやさしい管理人は、浴室や冷蔵庫をチェックしながら、「Beautiful! Beautiful!」とつぶやいていた。そして、夜中までかかって部屋中を磨いた成果で、「お前たち良くがんばったね。すごくきれいだったと報告しておくから、たぶん保証金は全部返ってくるよ。」とやさしく言ってくれた。

慣れない緊張の一時が無事に過ぎ、一安心して本題の郊外に向かうことにした。高速の入り口までの市街の道すがらに点々と作業をするU-haulやBudgetの引っ越しトラックを使い引越真っ只中の人々を横目に見ながら、昨日の引越しが無事に終わり良かったと返す返す思うのであった。良かったと思うのには、ひとつ追加の理由があった。それは、当日の天気によるものである。朝起きると大雨とひどい風が渦巻いていた。通りに「Windy City Coffee」という名の店の看板を偶然発見したが、正にその名前の通りであると思った。Mt. Prospectのガレージセールへの心配もあったが、その前に、びしょ濡れの引越しを免れたことに安堵感の矛先がまずは向いたのであった。

うっかり紙の地図を忘れしまったので、ガレージセールの会場に向かう前に日系のグロッサリーに立ち寄り周辺地図を手に入れた。Mt. Prospectの場所を確認し、いざ巨大ガレージセールが行われているという地域に向かう。しかし、会場と思しき地域の周辺についていると思われるものの、そこには想像していたような活況のガレージセールは一切見当たらず、ただ普段と変わらないであろう閑散とした空気の街並みがあるだけだった。手当たり次第に走り回りやっと見つけた雨と風に破れた「Garage Sale→」の紙の看板がなんだか空しく感じた。

アメリカでは、ガレージセールをする際に通りや家の前に蛍光色の紙でお手製の看板を表示したり、家の前に風船を掲げたり、木にこれまた蛍光色のリボンなどをくくりつけたりする。少しでも目立たせようというくらいの感触だろうと思う。

現地の閑散とした空気にがっくりしながら、それでも何かあるかもしれないと一応周辺をチェックするためにしつこく走り回っていると、少し開けた場所の学校のようなところで三角形の旗がたくさんついた紐が雨風にたなびいていた。ネパールの山奥を思い起こさせる風景だったが、ただ目立たせたいだけだったと思うのでもちろんネパールとは一切関係ないと思う。よく見ると雨で濡れて破れかけの”Garage Sale”の看板も認識できた。しかし、だだっ広い駐車場に車は3台しかなかった。

本当にやっているかどうか分からないので、激しい雨の中、車から降りるかどうかしばし悩んでから、心を決めて車から飛び出し会場へと足を踏み入れた。恐る恐る奥のほうを覗いてみると、こちらを発見したうれしそうな皆さんが「Come in! Come in!」とににこやかに招き入れてくれた。一般的にはGarage Saleという名前らしく家のガレージや納屋を使うことが多いが、ここは、高齢者の会だったらしく会の人たち共同で開催するためにこの建物を会場にしたらしかった。初っ端から言葉のイメージとは少し違ったがこれもガレージセールというからにはガレージセールということでいいのではないだろうかと思うことにした。

会場は想像通り閑散としており、客より係の人の数の方が多かった。というか、ほぼ係の人だけだった。そして、妙に人なつっこい犬がすり寄ってきた。そんな会場は高齢になったアメリカ人の楽しみの場というような感触を受けるのんびりしたいい雰囲気である。

せっかく会場に足を踏み入れたのでいろいろ見て回っていると、Pyrexパイレックスの器が3つで¢50とあったので一応購入候補として手に取った。3つ¢25で売っていたブックエンドはその後机の上で大分活躍くれた。

この会場は、まとめてレジで精算するスタイルだったのでそれらを持っていくと、こちらからは何も言わないながらも、係りのおじいさんはすぐに少し考えて悩む素振りを見せ、「¢40でいいよ」と言い出した。計算が合わないが、言われた通りに¢40を支払ってみると、「いい買い物したね」と言ってくれた。少し先走り気味な彼なりのエンターテイメントでお得な気持ちを演出してくれたのだろうと思う。まだ異国の空気を漂わせてる怪しいアジア人であっただろうにも拘らず、さすが、包容力のあるアメリカ人らしい気配りだと感動したのを憶えている。

そんな初めてのガレージセールの会場を後にして外に出る頃には雨は既に治まりかけていたので、もう少しその界隈をチェックすることにした。暫く徘徊してみると、それまで既に閉店しているかのような雰囲気に見えた三々五々目にしていた雨風に破れた蛍光色の紙の看板の主は、実はまだGarage Saleを実施していることがあるということに気づいたのだった。


これで40セント


途中から薄々は勘づいていたが、このMt. Prospectの巨大ガレージセールというのは、その地域全体で申し合わせて同じ日に多くの家や団体がガレージセールをしようという街のイベントだったのである。

そんな街ぐるみのイベントであるにもかかわらず看板はほとんど見かけなかったことや、残った数少ない看板もこの雨風で濡れたり破れたりしたまま放置されていたこともあり、そんな看板の主も既に皆閉店したものだと思い込んでいたのである。

その後のGarage Saleでは、ご高齢の方がやっているもののほうが自分にとっていいものをだしているということを感じるようになった。もしかすると昔は日常の物以上ではなく、それ以下のものでもないような物だったかもしれないが、時間に磨かれ、歴史にもまれ、結果として味が出ていいものになったとも言えるかもしれない。子供のいる家庭などのGarage Saleでは、子供用品ばかりで、時には、子供服のみということもある。この巨大ガレージセールでその後看板を頼りにやっと探し当てたGarage Saleもそんな子供用品ばかりの所だらけでなかなかピンとくるようなことはなかった。そんな中、ひとつだけ、紙の看板に丁寧にビニールを被せてある会場があった。看板をたどって住宅街の奥の奥まで入っていったがなかなか会場は見当たらず、諦めかけた頃、更に少し小路に入った行き止まりにそのGarage Saleの会場はあった。

このガレージセールはご高齢の男性が自宅のガレージで開いており、所狭しと並べてある品物は、主に趣味と思しき電車模型であった。そこに、Union Pacificと書いてあるものがいくつもあり、目に付いた。聞くと現在で言うところの長距離鉄道の前身のことであるらしかったが詳細は定かではない。長距離鉄道のMetraメトラというと列車のイメージが強いが、彼は、Union Pacificの名の入った牽引用トラックやコンテナーなどの模型を多く持っており、細かいことはよく分からないながらも興味を惹かれてそのいくつかを手に取って見てみた。その中で気に入ったトラックの牽引部分が2種類あり、どちらかを購入しようと思っていたが、ほしい方は小さい排気管の部品が欠けていた。妥協案の方はコンプリートであったが、まずは欲しい方の排気管の部品がないかどうか聞いてみた。彼は無造作に妥協案の排気管を取り外してくれようとしたのだが、接着剤でくっついているから無理だなぁというようなことを残念そうに言い、ふと、雑多な箱に目を落とした。そして、暫くガサゴソと中を探った後に「You got it!」と少年のように目を輝かせながら言い出したその手には、小さい排気管の部品があった。「たくさん部品があるから・・・」と何やら小難しい説明の後、小さいチャックのついた部品用のビニール袋を取り出し、「なくさないようにこれに入れとくね」と丁寧に入れてくれた。あの看板の気配りの主であることを思い出した。そんな動きを眺めながら、いい人生を歩んできたのだろうと勝手に思いを馳せた。


後日友人の息子に踏みつぶされながらも何とか復活したUnion Pacificのロゴがあるトレーラーの模型

偶然の力でお気に入りを手に入れたという嬉しい気持ちももちろんあるが、その手に入れた物の背景にある人間事情もなんだか楽しく感じさせるひとつの要因だなぁと疲れた頭の中で無駄に感慨深く思いながら現場を後にした。